どうもこんにちは。きむ公です。 12月17日、かんぽ生命株が一時4.3%以上の下落を見せました。
原因は不適切な保険の販売をめぐって金融庁から業務停止命令が出る見通しが強まったことです。
業務停止命令といえば、2018年10月にスルガ銀行が受けていたことが印象に残っている人が多いと思います。
スルガのケースでは、暴走した営業部が融資資料改ざんなどの悪質行為を行っていました。
スルガ事件を機に、不動産投資向けの融資は一気に出にくくなりましたから、不動産投資家はこの事件をよく覚えているはずです。 果たして、かんぽ生命の「不適切販売」も、スルガ銀行ほどの悪質さなのでしょうか。
そして、業務停止命令が実際に出た場合、かんぽ生命は今後どうなっていくのでしょうか。
株主への影響を含め、分かりやすく解説します。
目次
かんぽ生命の何が問題だったか 〜不適切販売とは〜
今回の騒動の焦点は、かんぽ生命と日本郵便は、自分たちの利益だけを考えて保険の勧誘をしていたのではないか
ということです。
なぜ、日本郵便も責任を問われるかいうと、かんぽは自分たちの保険商品の販売を郵便局に外注しているからなんですね。
現在、日本郵便・かんぽ生命・ゆうちょ銀行は一応別会社ということになっています。
しかし、実際は三位一体となって営業活動を行っていることはご存じの通りです。
特に、郵便局員は他二社の業務も積極的に行っています(逆に金融2社が郵便局の業務を行うことはあまりありません)。
つまり、今回の不正には郵便局員も深く関わっていたということですね。 では、一体彼らはどのような不正を行っていたのでしょうか。
結論から言うと、今回の騒動は露骨に法律に違反する犯罪行為というよりは
金融商品販売のやり方が非常に汚かった
というものです。
不適切だった可能性のある販売数はなんと18万3,000件
まず、今回の問題の規模感から見ていきましょう。日本郵政グループが7月に発表したところによると、不適切販売の疑いのある契約件数はなんと18万3,000件を超えるということです。
例えばかんぽの普通定期保険の月額保険料は2520円です。
もし仮に18万人から半年間不正にこれだけの額を受け取っていたとしたら、その額は 18万件 × 2500円 × 6ヶ月 = 27億円 にもなります。
実際には18万件全てが不正だったわけではありません。
しかし、とんでもない被害規模だということがわかります。
一体どういう不正契約をしていた?
今回報告されているかんぽ生命の不正契約の形態は大きく3パターンに分類されます。3つの不正契約
- パターン1:顧客が無保険になるケース
- パターン2:無保険の期間があえて作られるケース
- パターン3:保険料二重徴収
パターン1:顧客が無保険になるケース
1つめは、元々保険に加入していた人を対象に行われました。お客さんは既に保険に加入しているのにも関わらず、かんぽ・郵便の営業マンは強引に新しい保険に乗り換えるようすすめました。 何のためにこんなことをするのでしょうか。
答えは営業マンのノルマ達成の為です。
郵便・かんぽ生命の営業マンは、顧客を新しい保険に入れることを明示的・暗示的に奨励されています。よって、顧客に本当に必要なのかどうかは考えずに、とにかく乗り換えを勧めます。 ここで問題なのが、
保険を乗り換えようとしても結局審査に落ちてしまい、乗り換えることができないことがある
ということです。
この場合、お客さんは無保険状態に陥ってしまいます。
今まで保険料を払い込んでいたにも関わらず、営業マンの都合に振り回された結果保険に入れない状態になってしまったわけです。 郵便局の利用者はお年寄りも多いです。
審査に通らない人が多数いることは、初めから郵便・かんぽ側もわかっていたはずです。
にも関わらず、自分たちの利益のためだけに、猫も杓子も乗り換えを勧めていました。
パターン2:無保険の期間があえて作られるケース
2つ目のパターンは、1つめのパターンと似ています。お客さんに自分たちのノルマのために保険乗り換えを勧めるところまでは前のパターンと同じです。
このパターンでは、お客さんが新しい保険の審査に無事通ってから彼らの不正が始まります。 新しい保険の審査に通ったことにより、お客さんは新しい保険サービスを受けられます。
しかし、問題は古い保険の解約と新しい保険の加入までの間に数カ月程度のタイムラグがあることです。
この期間はお客さんは無保険状態となり、万一のことが起きても何の補償も受けられません。 なぜこんなことをするかというと、これも営業マンの利益のためです。
実は、お客さんに前の保険を解約してすぐ別の保険に入られると手当が半額しか出ない仕組みになっていたのです。それは単なる乗り換えであり、新規契約とは見なさないということですね。
営業マンが手当を満額得るためには、新旧の保険契約の間に4ヶ月以上の間が空いていないといけないというシステムになっていました。 つまり自分たちが多く営業手当を貰うために、顧客に不利な条件を押し付けていたということですね。
パターン3:保険料二重徴収
まだあるのか、とうんざりしている方も多いことでしょう。3つ目のパターンは、お客さんに保険料を二重に支払わせるという手口です。 通常新しい保険に乗り換えた場合は、新しい保険はすぐに解約になります。
しかし、なぜか古い保険の解約を半年以上も先のばしにしているケースが今回多数報告されています。
勿論その間も顧客は保険料を払い続けています。 なぜこんなことをするのかというと、これも営業マンの利益のためです。
このケースでも、古い保険を即解約されると営業手当が半分しかもらえないのです。
半年以上保険解約を先延ばしにしないと満額の手当が出ないために、その間に顧客に保険料を二重に払わせてでも、保険契約を続けさせていたのです。 いずれのパターンも、非常に悪質だと言えます。
彼らは自分たちの利益しか考えていません。
郵便局を信頼してくれていたお客さんのことなど、どうでも良かったのでしょうか。
業務停止命令をくらうとどうなる?
業務停止命令を下されると、一定期間その業務を行うことが不可能になります。今回は保険販売に関する業務が対象でしょうから、一定期間保険営業ができなくなると考えられます。
過去の業務停止の例だと、短い場合は1週間、長い場合は1年ほどの業務停止期間が儲けられてきました。 今回のかんぽの業務停止期間はまだ判明していません。
が、業務停止期間は収益が資産運用部門に大きく依存することになるでしょう。
株主への影響は?
さて、今回の事件が株主にどう影響するのかも考える必要があります。業務停止命令の報道を受け、かんぽ生命の株価が下落したことは冒頭でもお伝えしました。
もちろん、親会社にも影響が出ています。
日本郵政株は12月16日の終値1060円から、
報道を受けて一時期1044円まで下落しました(下落幅がさほど大きくないのは地合いのおかげもあるでしょう)。 会社側は全ての契約者(1800万人)に謝罪の手紙を送り、契約内容の確認を行うと発表しています。
極めつけは、18万件の不正契約の疑いのある顧客に対して、直接訪問などの調査を行うということです。
これらは行うこと自体多大なコストがかかりますし、この行為によって契約が減ることはあっても増えることはないでしょう。 もちろん、信頼回復のためにはこれくらいのことをやるのは当然です。
しかし今回の件で、彼らは自分たちの株主の資産を大幅に毀損しているということを肝に命じるべきでしょう。
影響はかんぽだけに留まらない
日本郵政グループ3者(日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命)の中では、ゆうちょ銀行が稼ぎ頭です。ゆうちょがグループ全体の利益の実に八割を稼ぎ出します。
ゆうちょ銀行に次いで利益をあげるのが、かんぽ生命であり、郵便の利益はかんぽの半分程度です。 そう考えると、今回のかんぽの事件で郵政グループが最も恐れなければならないのが、ゆうちょ銀行への影響波及であるとわかります。
もともと、現在の歴史的超低金利で銀行はどこも収益が圧迫されています。
そんな中、ゆうちょ銀行も他の銀行と同様、 収益の中心を株式などのリスク資産運用へとシフトさせてきました。
それと同時に、重要な収益源に据えたのが、投資信託などの販売手数料です。
これを読んでいる人の中にも、郵便局に行った時に投資信託の購入を勧められた人がいることでしょう。 かんぽ生命と日本郵便がこのような醜態を晒した今、ゆうちょ銀行への信頼が毀損することが想定される最悪の事態といえるでしょう。
金融業は信頼が命です。
特にゆうちょ銀行は、「郵便局」「元公的機関」という信頼を最大の武器にしています。 はっきり言って、ゆうちょの金融サービスのクオリティは現状そう高くありません。
全国に無数に郵便局やATMが存在することは確かに利点ではあります。
が、
- 金利がつく預金に上限がある
- 投信販売手数料がネット証券より高い(=全く同じ投信をネットなら安く買える)場合が多い
顧客を騙した保険会社の仲間から、投資信託を買う人はそう多くないでしょう。
世界的な株高による運用益で、次回の郵政グループの決算はそう悪くないかもしれません。
が、今回のような不祥事で顧客の信頼を喪失した影響は長期的に見て大きいと考えます。
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