2020年4月20日、WTI原油先物がマイナスになるという人類史上初めての大事件が起きました。
本当に世界に衝撃を与えるニュースです。
このところ、原油価格は20ドル台と言う非常に安い価格で推移していました。
原因は世界中で原油が溢れ、貯蔵タンクがいっぱいになりそうだという懸念が浮上したことです。
今、コロナによる経済の停滞で原油需要がかつてないほどに低下していますからね。
原油価格はずるずると低迷し、4月に入ると10ドル台で取引されるようなりました。
そして、20日に急落しまさかのマイナス圏に突入するという事態になったのです。
価格がマイナスというのは本当に前代未聞のことです。
今、原油に一体何が起きているのでしょうか。
この記事では、原油先物に加えて原油 ETF の状況や現在生じている原油のロングポジションの見えない維持コスト(コンタンゴ)について解説します。
目次
原油先物価格がついにマイナスに転落
先述したように、2020年4月20日に原油先物価格はマイナスに突入しました。ここで言う原油先物とは WTI 原油先物5月限のことです。
次のグラフがそのチャートです。 結局20日は1バレル当たりマイナス37.63ドルで取引を終えました。
なおこの記事を書いてい時点(2020年4月21日15時5分,日本時間)では原油価格は1ドル台まで回復しています。
1ドルと言ってもとんでもない安値であることには変わりないのですが。
なお他の限月のものに関しては、ここまで極端なプライシングはされていません。
この記事執筆時点で6月限は21ドル台を維持しています。
しかしいったいなぜ原油先物はこれほどまで暴落してしまったのでしょうか。
原油の貯蔵コストが跳ね上がった
原油暴落の大きな要因は貯蔵コストが跳ね上がったためです。21日に出たブルームバーグの記事でも、原油の貯蔵限界が近いことが指摘されています。
WTI原油の受け渡し場所である米オクラホマ州クッシングの貯蔵施設の原油在庫は2月末以降48%急増し、約5500万バレルに達した。
米エネルギー情報局(EIA)によると、実際に使用できるクッシングの貯蔵能力は昨年9月末時点で7600万バレル。
ゴールドマン・サックスのアナリストらは、5月第1週までに満杯になる可能性が高いとリポートで予測した。ブルームバーグ
つまり、需要がない中で原油在庫がタンカーに積み上がり、その保管料が跳ね上がってるということです。
今、原油は売り手がお金を払ってでも引き取ってもらうという状態になっているわけですね。
機関投資家のポジション調整
さて、5月限の原油先物の決済期日は4月21日火曜日です(アメリカ時間)。このタイミングまで原油のロングポジションを持ち続けることができない機関投資家が20日に一斉に投げ売りし、ついにはマイナス圏内まで突入したというのが実態であるようです。
20日は出来高が急増しましたが、原油を持っていた機関投資家が必死になってポジションを解消していたのでしょう。
一方で原油 ETF はそこまで暴落していない
次に先物と投資家の人気を二分する原油ETFを見てみましょう。原油先物がとんでもなく暴落した一方で原油 ETF はそこまで値動きがありませんでした。
例えば次のグラフが「1699 NEXT FUNDS NOMURA原油インデックス連動型上場投信」のチャートです。 確かに下げてはいますが、日本時間4月21日終値で前日比10%未満のダメージで済んでいます。
おそらく ETF の内部で5月限のものはほとんどポジションが取られておらず6月限以降の期先ものに乗り替えられていたのでしょう。
ということで今回の暴落では、ETF を買っていた人よりも直接先物をやっていた人が破壊的ダメージを受けると言う結果になりました。
史上最高のコンタンゴ
とはいえ今後も原油 ETF なら安心ということはありません。というのも先物限月間での価格差がかなり開いてきているからです。
次が現在の先物限月間での取引価格の一覧です(4ヶ月分)。
期先物ほど価格が上がってることがわかります。
限月 | 価格(ドル) |
5月 | 1.40 |
6月 | 21.40 |
7月 | 27.09 |
8月 | 29.21 |
(逆に期先物ほど価格が低い状態をバックワーデーションと言います。)
今現在はこのコンタンゴの度合いが歴史的に見てもトップクラスに激しい状態です。
こうなると何が問題なのでしょうか。
一番の問題はブル型のETFの長期保有リスクが跳ね上がってしまうことです。
一般的な原油 ETFは先物で運用されています。
つまり多くの場合、原油 ETF を買うということは、お金を払ってプロに先物取引を依頼しているのと同じ状態です。
一方で期日が来れば強制的に決済される先物とは異なり、 ETF は基本的に保ち続けることができます。
これは運用するプロたちが内部で先物を乗り換えているからです。
コンタンゴの時にこの乗り換えを行うと、投資家は損します。
価格が低い期近物を打って価格が高い期先物を買うわけですからね。
この価格差の分だけ、実質的に保有するポジションの量が減ってしまいます。
つまり現状でダラダラと ETF を持ち続けると、今後原油価格が上昇しても受けられる恩恵が減ってしまうということなのです。
原油投資を検討している人はこの点にくれぐれも注意しましょう。
国内のガソリン価格はそれほど影響を受けない
最後に国内のガソリン価格について言及しときます。国内のガソリンはドバイや北海ブレントなど中東系の原油に依存しています。
そのためにアメリカの先物である WTI 原油先物がこれだけ暴落していても、ガソリン価格の低下はまだ限定的です。
もちろん相関はあるので、歴史的に見てもガソリン価格というのはかなり低下していくことが予見できますが、これほど極端な低下というのは必ずしも期待できないということです。
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